ランチェスター戦略は本当にビジネスで役立つの?

弱肉強食であるビジネスの世界で生き残るには「ランチェスター戦略」を用いることが
重要とされますが、「本当に役立つの?」と思っている経営者も多いはずです。

ではそもそもランチェスター戦略とはどういったものなのか、
ビジネスの世界で生き残るのに本当に役立つのかなどわかりやすく見ていきましょう。

ランチェスター戦略は元々軍事戦略

ランチェスター戦略は現在ではビジネス戦略の1つとなっていますが、
元々は軍事戦略でした。

1941年頃にイギリスのエンジニアであったフレデリック・W・ランチェスターが、
戦時下の航空機の損害状況を研究したことに端を発します。

この研究でランチェスターが出した結論は「武器が同じなら兵力の多い方が勝つ」
ということでした。

ランチェスターが提唱したモデルがアメリカに伝わり、
コロンビア大学などでさらなる研究が重ねられて軍事戦略へと発展します。

アメリカで軍事戦略に発展したランチェスター戦略が戦後日本に伝わり、
マーケティングコンサルタントの田岡信夫氏によってビジネスに応用されます。

その後、販売戦略としてランチェスター戦略を用いられることが多くなり、
高度経済成長期頃にマーケティング戦略としてのランチェスター戦略が定着しました。

弱者の戦略と強者の戦略

ランチェスター戦略には、弱者の戦略とも言われる「第一法則」と強者の戦略とも
言われる「第二法則」という2つの法則があります。

どちらも「兵力の多い方が勝つ」という原則は同じですが、第一法則は一騎打ち、
第二法則は集団戦を想定したものです。

例えば、兵士が50人のAチームと兵士が30人のBチームがあり、
それぞれの兵士が一騎打ちで戦ったとします。

持っている武器が同じなら相打ちになりますから、
兵士が20人生き残ったAチームが勝つことになるというのが第一法則です。

同じ兵数のAチームとBチームが今度は集団戦で戦ったとします。

集団戦では1人が複数を相手にすることになりますから、
攻撃力は兵力の2乗になると考えられます。

Aチームは兵士が50人なので50の2乗で攻撃力は2500、
Bチームの攻撃力は30の2乗で900となるのです。

攻撃力の差は1600で40の2乗ですから、集団戦だと40人の差でAチームが勝つ
というのがランチェスター戦略の第二法則となります。

兵力の多い方が勝つのは同じでも、一騎打ちよりも集団戦の方が兵力差が
大きくモノを言うというのがランチェスター戦略です。

兵力の多い方が勝つのに弱者の戦略とは

兵力の多い方が勝つのに第一法則が弱者の戦略と言われるのは、
集団戦よりも一騎打ちの方が彼我の差が小さくからです。

先の例では、一騎打ちだと20人の差、集団戦だと40人の差で
兵力の多いAチームが勝つことになります。

Bチームから見るとどちらでも負けるのですが、
一騎打ちの方が差が小さくなっています。

実際の戦いでは、
兵士の数や武器に加えて「兵士個人の力量」も勝敗に大きな影響を及ぼします。

Bチームの兵士個人の力量が高い場合には、
戦力差が小さくなる一騎打ちの方が勝てる見込みがあるのです。

兵力で劣る場合には集団戦ではなく一騎打ちで挑む方が勝てる見込みがあるので、
一騎打ちを想定した第一法則が弱者の戦略と言われるわけです。

マーケティング戦略としてのランチェスター戦略

マーケティング戦略としてランチェスター戦略を見た場合、
自社がマーケット内で弱者なら第一法則、強者なら第二法則を利用することになります。

まず自社が弱者であるなら、
戦いだと一騎打ちを挑みますが、ビジネスだとマーケットを狭めて挑むことです。

例えば化粧品市場に参入する場合、総合化粧品メーカーとしては
すでに一定のシェアを持っている大手メーカーには逆立ちしても勝てません。

しかし男性化粧品や高齢者向けの化粧品などマーケットを狭めることで、大手メーカーにも太刀打ちできる可能性が出てきます。

また戦いでは兵士個人の力量が高ければ兵力が劣っていても一騎打ちで
勝てる可能性があるので、ビジネスにおいても商品の質を高めることが重要です。

品質を高めて大手メーカーの商品と差別化することで、
大手メーカーの商品ではなく自社の商品を選んでもらえる可能性が高まります。

ビジネスにおける強者の戦略

自社がマーケット内において強者の立場にあるなら、戦いなら集団戦ですが、
ビジネスなら「ミート戦略」を用います。

ミート戦略は簡単に言うと弱者の戦略を封じ込める戦略のことです。

具体的に言うと、商品数を増やす、人気商品を増産する、
競合他社と同じコンセプトの商品を発売するなどといったことを行います。

商品数を増やしてマーケット内のあらゆるジャンルの商品を取り扱うことで、
弱者からするとマーケットを絞りにくくなります。

どこに焦点を当ててマーケットを絞っても、
そこには強者が居るので商品ジャンルで差別化が図れません。

人気商品を増産すると弱者のシェアを奪うことにもなるので、
弱者をマーケットから撤退させられる可能性があります。

同じコンセプトの商品なら大手メーカーのものを選ぶ消費者が多いです。

弱者と同じコンセプトの商品を強者が発売することで、
弱者のシェアを奪う上に差別化を図りにくくできます。

資金・人員・生産体制などの「戦力差」で弱者を押し切ってしまうのがミート戦略であり、
ランチェスター戦略の第二法則を利用した戦略なのです。

ランチェスター戦略の三原則

弱者にしろ強者にしろビジネスにランチェスター戦略を用いる場合には
 ・一点集中
 ・足下の敵攻撃
 ・ナンバーワン主義
の3つの原則を意識する必要があります。

まず「一点集中」ですが、目標を一点に絞り、
目標を達成するまでその一点に力を集中することを意味しています。

ビジネスにおいては
 ・商品
 ・エリア
 ・顧客層
など自社が競合他社に勝てそうなところに経営資源を集中して投入することです。

特定の商品を集中して売り出すことで販売数が増えると、
自社の他商品も集中して売り出した商品に釣られて売れ始めるといったことがあります。

弱者は経営資源に余裕がありませんから、
強者に勝てそうなところへ集中させて一点突破を狙います。

強者は経営資源を一点に集中させることで、
かえってマーケット全体のシェアを繋がることにもなるのです。

マーケット内のすぐ下の競合他社のシェアを奪う

足下の敵攻撃は、ビジネスにおいてはマーケット内における
すぐ下の競合他社のシェアを奪うことを指します。

一般的には「上を見て戦え」と言われることも多いですが、
ビジネスで自社が上に行くには下を叩くことも重要です。

単純に上と戦うよりも下と戦った方が勝てる可能性が高いです。

自社の下に居る競合他社のシェアを奪えば、おのずと自社のシェアが伸びますし、
シェアを奪われた競合他社を撤退に追い込めます。

1社でも撤退に追い込めばライバルが減りますから、
マーケット内でさらに戦いやすくなります。

上のシェアを奪うよりも勝ちやすい下のシェアを奪う方が簡単ですから、
ビジネスでは下を叩くことが重要なのです。

2位を大きく引き離した1位になる

ナンバーワン主義はマーケット内でシェア1位獲得を目指すことを指します。

ただシェア1位といっても僅差の1位ではなく、
2位を大きく引き離した1位を目指さないといけません。

たとえ狭いマーケットであっても圧倒的1位を獲得することで、
確固たる地位が確立できます。

要するにブランドが確立できるので、
他のマーケットに参入した場合でも最初から強者と対等に戦うことができるのです。

また圧倒的1位を獲得することで2位以下は弱者となるので、
その分野において今後は強者の戦略を用いて有利に戦うことができます。

ランチェスター戦略を用いて成功した事例

日本にもランチェスター戦略を用いて成功を収めた企業はたくさんありますが、
中でも代表例と言っても良いのが「ジャパネットたかた」です。
(https://corporate.japanet.co.jp/)

今でこそ通販業界のトップランナーですが、
元々は長崎県にある個人経営のカメラ店からスタートしています。

1990年に通販事業へ参入しますが、当時はすでにテレビショッピングが
定番となっていて大きなシェアを持つ通販会社もいくつかありました。

ここで弱者の戦略を利用、テレビではなく当時ライバルの少なかったラジオを
戦場として大手通販会社に局地戦を挑んだのです。

1991年には北海道から沖縄までのラジオショッピングネットワークを確立します。

その後はテレビ、カタログ、折り込みチラシ、ネットと販売網を広げて
通販業界のトップランナーへと躍り出ました。

トップランナーとなった現在は、あらゆるジャンルの商品を取り扱うなど
競合他社を寄せ付けない強者の戦略を用いています。

ジャパネットたかたは、ランチェスター戦略の弱者の戦略と強者の戦略を
上手く使い分けている好例なのです。

まとめ

ランチェスター戦略は元々軍事戦略でしたが、
日本ではビジネスに応用されてマーケティング戦略として定着しました。

ランチェスター戦略は、マーケットに参入したての新規企業もトップシェアを獲得した
企業も活用できるものです。

マーケットの正確な状況分析が求められますが、シェアを伸ばしたいシェアを
維持したいといった場合にはランチェスター戦略を利用してみてください。